犬の症例犬の診療
内分泌科2 犬の副腎疾患(クッシング症候群と副腎腫瘍摘出術)
こんにちは、岡村です。
今回もこむずかしいお話です。すいません。一度どこかで気楽なものもいれていきます。
体の中には副腎という小さな臓器が2つあり、これはとても大切な臓器です。
体は、何らかの命令を生理活性物質という「手紙」でやりとりしていて、これは2種類あります。
遠く離れた者同士でやりとりする役割を担うのが、ホルモン
近い細胞間でやりとりするのが、サイトカインです
どちらの生理活性物質も体にとってかなり重要です。
糖質コルチコイド、性ホルモン、鉱質コルチコイドは副腎皮質から分泌されるホルモンで、
アドレナリン、ノルアドレナリンは副腎髄質から分泌されるホルモンです。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、原発性アルドステロン症などの難病をおこさせ、
副腎皮質腺癌、副腎癌、悪性褐色細胞腫といった悪性腫瘍性疾患も存在します
いずれの病気も早期発見、早期治療が大切です。
今回は副腎疾患を診断し治療した2例を紹介したいと思います。
ポイントは、いずれのケースも、
フィラリア症予防の血液検査で健康診断もあわせて行ったことがきっかけで、
早期治療に至ることができたことです
一人目は、ここ数ヶ月のうちに何度か、誤食を主訴に受診されていました
いずれも大事には至らずでしたが、
フィラリアの血液検査で少し数値が変動していたことから、エコーをみてました。
通常の副腎の厚みよりも分厚いことがわかり、
その後の副腎機能検査などで下垂体性副腎皮質機能亢進症と診断されました。
副腎にホルモンを出しなさいと指令を出す臓器が脳下垂体になります。
この場合、下垂体自体に病態があるので、ここを治療することが理想的です。
ですが、下垂体の外科治療や放射線治療は現実的に難しいことも否めません
症状を抑えるだけなら、主に副腎をターゲットにした内科治療でクッシング症候群を抑えることとなります。
クッシング症候群の症状の一つに多食がありますが、
通常はよく食べるようになったからといって病院に相談されません。
また、よく水を飲んでよくおしっこをすることも大事な症状ですが、
多頭飼育の場合はわかりにくいかもしれません。
症候群ですから、まだまだ症状をたくさん抱えていることもあります。
治療を始めた現在は症状が落ち着き、再び誤食することもなくなりました
ちなみにこちらが正常な副腎になります。(色は血管を表し、そのすぐ横にある黒~灰色のエリアがそうです。)
二人目は全くもって元気な状態でしたが、
同じくフィラリアの血液検査で少し数値が変動していたことから、エコーをみてました。
左副腎が通常の形ではなく、球形状に腫れていることがわかり、副腎腫瘍が疑われました
腫瘍が機能的であるかどうかは術後管理に強く関係してきます。
またこの場合、良性、悪性のどちらかを事前に鑑別することは危険を伴うこともあり現在ではまだ難しいです。
世界中の獣医師たちが、危険がなく腫瘍を事前に分類できないかと様々な検査を研究し文献として報告しています
悪性の副腎髄質腫瘍はアドレナリンをたくさん分泌するため、血行動態を変化させるなかなか危険な腫瘍です。また、副腎皮質にもガンが発生しうります。
副腎の近くには大血管が走行しており、腫瘍がこの血管に浸潤するとかなりやっかいです。
また放置すると破裂して血腹症となる危険もあり、
この段階で救命しても予後はよくないことが報告されています。
入念な検査と準備の後、外科手術によって
2つある副腎のうち腫瘍化した一方の副腎を摘出することとなり、
無事に乗り切ってくれました。
術後も良好な経過です
現在のところ、機能性、非機能性にかかわらず副腎腫瘍なら、
外科治療が第一選択となり、外科治療+内科治療+αで、
下垂体性副腎皮質機能亢進症なら主に内科治療が適応になると考えます。
クッシング症候群は、複雑でおいおい別枠で紹介したい程の大事な疾患で、
副腎は大切な臓器であること
病態を形成することも比較的多いということ
そして、中には腫瘍もありえ、これは悪性である可能性もあることを
お伝えしたかったのです
飼い主さんからなんらかの訴えがあればわかりやすいですが、
フィラリアの血液検査で、副腎が心配・・・と言われれば、
必ず精密検査をうけさせてあげてください。放置はよくありません。
その際は、副腎の精密検査を今するかどうかを相談するのではなく、
大切な臓器ですから、詳細を知って結果を踏まえた上で、
大丈夫なのか、注意経過観察するのか、今すぐ対応するのかを
主治医とよくご相談いただきたい病態の一つが副腎疾患なのです