犬の症例犬の診療
腫瘍科2 犬の血管肉腫
こんにちは、岡村です
動物病院で臨床獣医としていますと、腫瘍性疾患に遭遇することも多くあります
腫瘍は様々な場所にできます。
目で見える体表はもちろん、お腹の中や胸の中、頭の中など細胞があるところどこにできてもおかしくありません。
毎日腫瘍細胞ができては、腫瘍免疫によって増殖が抑えられているといわれています。
加齢などによる腫瘍免疫能の低下、腫瘍細胞の遺伝子変異、
ウイルスや紫外線、化学物質への曝露、慢性刺激や慢性炎症などが
腫瘍が増殖する要因といわれており、
ふとした時に我々人も含め動物を苦しめ、中には予後がよくないものもあります
今日はそんな腫瘍の中でも、脾臓にできる腫瘍に関してのお話です。
脾臓は走った時に痛くなるあの脇腹にあります
これは、赤血球が動員されるため脾臓が収縮して痛いといわれています。
脾臓は発生学的には血管の途中でできた臓器で、
傷んだ赤血球をトラップしたり、赤血球や白血球の中でもリンパ球の待機場所として
普段は活躍しています
特にわんちゃんでは、この脾臓が腫瘍化することも多くあります。
発生学的に血管の途中にできた臓器とお伝えしましたように、
血管内皮細胞の腫瘍である血管肉腫が悪いやつ代表としてあげられます
統計上の通説として、3分の2の法則があります。
脾臓腫瘍の3分の2は悪性で、
脾臓悪性腫瘍の3分の2は血管肉腫であるという法則がまかり通るくらいいやな腫瘍です。
この腫瘍は、脾臓からの大量出血をおこさせるだけにとどまらず、
肝臓、腸間膜などお腹の中や、
右心房、右心耳などにも多発性・転移性に増殖し、
心タンポナーデ(心臓の膜と心臓の間に血液を充満させてしまいポンプとしての心臓機能を著しく損なわさせた状態)や
DIC(血小板が消費されることによる致命的な病態)など重篤な病態を併発させます
発見時には進行かつ緊急的状態であることも覚悟しなければなりません
当院では血腹の原因となっている腫瘍のある脾臓などを外科的に摘出した後、
抗がん剤やガン免疫細胞療法などを組み合わせた治療を行い、がん治療を行っています。
お腹の中にたまった血液を手術中に吸引しています。
東京大学でも近年に血管肉腫の心臓外科治療の効果に関する論文を発表しており、
予後のよくない強烈な疾患に対していかに臨床獣医師は頑張れるか、
家族の幸せを守れるか切磋琢磨して治療の発展をめざしている腫瘍性疾患の一つです
開院からこれまで3年間の当院での治療歴では、
健康診断での発見が3分の1(うちの子のきみちゃんはこれでした。)
他治療の目的で行った検診で偶然発見された未発症状態のケースが3分の1
大量出血による血腹症での緊急来院が3分の1でした。
そして、大量出血していなかった脾臓の病理診断はリンパ腫や血腫。
大量出血していた場合は全て血管肉腫との病理診断でした
血腫や血管腫がいずれ血管肉腫になるのか、最初から血管肉腫なのかは不明ですが、
脾臓などを定期的に診ることで早期発見・血腹症発症前に対応できる可能性があり、
当院で治療した3分の2のケースでは血管肉腫から免れているというふうに強引に考えるなら、
極端な話として、3分の2は健康診断が助けてくれる腫瘍ともいえるのかもしれません
いかに健康診断が大切かを教えてくれる腫瘍です。
きみちゃんは早めにみつかってよかったね
なかなか難しい話でしたが、
フィラリアシーズンで血液検査を行うことは多いのですが、
現在のところ、血液検査では発見できない腫瘍ですので、
7歳を超えたわんちゃんは積極的に超音波腹部エコーを含めた健康診断を
定期的にうけさせてあげることをオススメします
年齢に応じた検査を取捨選択しながら、
わんちゃんの健康を守ろうとしてあげられるのは、
飼い主さんと臨床獣医師とでしかできないなぁとこの疾患に遭遇するたびに、そう感じています