猫の診療
猫のワクチンについて
<はじめに>
人も動物も、医療における知見は常に進歩していく中、科学的エビデンスや世界の状況変化に適切に応じていくことが求められます。
当院でも、皆様により一層安心・安全な獣医療を提供するため、ワクチンプログラムの見直しを行いました。
WSAVA(世界小動物獣医師会)のガイドラインでは、
「コアワクチン」
…世界中で感染が認められる重度の致死的な感染症から動物を防御するもの
「ノンコアワクチン」
…地理的要因、その地域の環境、またはライフスタイルによって、特定の感染症のリスクが生じる動物にのみ必要なものと定めています。
現在、日本で猫がワクチンで予防できる病気には、
コアワクチン
・猫パルボウイルス(FPLV)感染症
・猫カリシウイルス(FCV)感染症
・猫ヘルペスウイルス(FHV-1)感染症
ノンコアワクチン
・猫クラミジア(C.felis)感染症
・猫白血病ウイルス(FeLV)感染症
があります。
WSAVAのガイドラインでは、以下のようなワクチンプログラムが推奨されています。
⭐コアワクチン(FPLV、FCV、FHV-1)
<子猫>
6ヶ月齢~1歳齢で追加接種(免疫応答を高めるブースター接種)
<成猫>
低リスク群…3年以上の間隔で追加接種
高リスク群…毎年の追加接種
⭐ノンコアワクチン
<子猫>
(FeLV)初回8週齢、3~4週間後に2回目
(C.felis)初回9週齢、2~4週間後に2回目
<成猫>
(FeLV)高リスク群では2~3年以上の間隔で追加接種
(C.felis)高リスク群では毎年の追加接種
これらをふまえ、当院では、
🐱室内、単頭飼育の猫ちゃんは、1歳誕生日に追加接種、それ以降は、3年に一度、3種混合ワクチン(コアワクチン)を打つことをおすすめします。ワクチンを打たない年は1年に1回の健康診断時に抗体価測定をすることをおすすめします。
(ペットホテルなどを利用する場合はワクチンが必要なことがありますので、事前にご確認ください。)
🐱多頭飼育、外へ出る、保護施設等の猫ちゃんは1年に1回のワクチン接種をおすすめします。また、FIV、FeLV陽性の場合は推奨するワクチンが変わりますので、感染していないかのウイルスチェックもおすすめします。
~抗体価測定について~
ワクチンによる抗体価の上がり方や、免疫の持続期間は個体差があります。不必要なワクチン接種は控える必要がありますが、病気のリスクから守るため、抗体価を測定し、接種の是非を判断することができます。抗体価測定は血液検査なので、健康診断と一緒に受けるのもおすすめです。健康診断は1年に1回は受けることを推奨します。
抗体価測定とワクチン接種、どっちがいいの?
▶費用はどちらも同じくらいですが、抗体価を測定して低値だった場合は、さらにワクチン接種が必要なため、どうせ打つなら最初からワクチン接種で…という考え方もあると思います。ワクチンの副作用のリスク、病気の感染リスク、それぞれのリスクとベネフィットを考慮し、判断が必要です。
現状、日本で認可されているワクチンの種類には限りがあり、各々の病気のワクチンを一つずつ選んで接種することが難しい状況です。また流通の状況により、既存のワクチンも入手困難となる場合もあることをご了承ください。今後、より個々に合わせられるワクチンが出てくることが期待されます。
<さいごに>
テーラーメイド医療が求められる時代であり、ワクチンについてもそれぞれの環境やリスク、体調に合わせて個々に最適なものを選択するべきです。
そして、各々が予防をきちんとすることは、感染症の蔓延を防ぎ、地域の動物たちを守ることにつながります。地震や台風などの災害がいつ起きてもおかしくない近年、日頃から感染症対策をしておくことは重要であり、ワクチン接種は全員にとって大切なことです。
ガイドラインも最新の知見に応じて変化していきます。時代に則して最善の提案をできるよう、私たちも常にアンテナを張り対応してまいりますので、気になるところがございましたらご意見、ご相談ください。