猫の診療
猫のワクチンについて(ver.2024.8)
<はじめに>
人も動物も、医療における知見は常に進歩していく中、科学的エビデンスや世界の状況変化に適切に応じていく必要があります。
ワクチンは、感染症を防ぐために大切なものです。そして、感染症にかかるリスクと副反応のリスクをふまえて、種類や接種回数を適切に判断することが望まれます。
当院では、WSAVA(世界小動物獣医師会)のガイドラインを基にワクチンプログラムを考えておりますが、この度の2024年版WSAVAガイドラインの改訂点もふまえたうえで、それぞれのねこちゃんの生活環境や体質を考慮し、個々に合わせたワクチンプログラムを提案しております。
WSAVA(世界小動物獣医師会)のガイドラインでは、
「コアワクチン」
…世界中で感染が認められる重度の致死的な感染症から動物を防御するもの
「ノンコアワクチン」
…地理的要因、その地域の環境、またはライフスタイルによって、特定の感染症のリスクが生じる動物に必要なものと定めています。
現在、日本で猫がワクチンで予防できる病気には、
コアワクチン
・猫パルボウイルス(FPLV)感染症
・猫カリシウイルス(FCV)感染症
・猫ヘルペスウイルス(FHV-1)感染症
ノンコアワクチン
・猫クラミジア(C.felis)感染症
・猫白血病ウイルス(FeLV)感染症(室外へ出る猫ではコアワクチン)
があります。
<当院の推奨するワクチンプログラム>
★室内飼育、単頭飼育の猫(低リスク群)
・3種混合ワクチン(コアワクチン)を初回6~8週齢、その後3~4週間ごとに追加接種(16週齢以降まで)
・1歳齢*で追加接種(免疫応答を高めるブースター接種)
*2024改訂ガイドラインでは6ヶ月齢での追加接種となっていますが、当院では1歳検診としての来院タイミングでの接種を推奨しています
・1歳以降は3年に一度、3種混合ワクチン(コアワクチン)を接種
(ワクチンを打たない年は抗体価測定を推奨)
(ペットホテルなどを利用する場合は1年以内のワクチン証明書が必要なことがありますので、事前にご確認ください。)
★多頭飼育、外へ出る、保護施設等の猫(高リスク群)
・コアワクチンを含む混合ワクチンを初回6~8週齢、その後3~4週間ごとに追加接種(16週齢以降まで)
・1歳齢で追加接種(免疫応答を高めるブースター接種)
(ガイドラインでは2~3週間毎に20週齢以降まで、その後6ヶ月齢で追加接種となっていますが、これに従うと接種回数が大変多くなるため、当院では上記のプログラムを提案しています)
・1歳以降はコアワクチンを含む混合ワクチンを1年に1回接種
高リスク群においては、猫白血病(FeLV)、猫クラミジア感染症(C.felis)のワクチンを含む混合ワクチンを毎年接種することが推奨されますが、あらかじめウイルスに感染していないか検査が必要なことや、それらを含むワクチン供給が不安定なことから、予約時や診察時にご相談ください。
<抗体価測定について>
ワクチンによる抗体価の上がり方や、免疫の持続期間は個体差があります。不必要なワクチン接種は控える必要がありますが、病気のリスクから守るため、接種をしない年は抗体価を測定し、接種の是非を判断することをお勧めします。
抗体価測定は血液検査なので、健康診断と一緒に受けるのもおすすめです。
<1年に1回、健康診断を受けましょう>
ワクチン接種の有無に関わらず、1年に1回以上の健康診断を推奨します。 1歳検診以降は毎年お誕生月に健康診断を受けるのもおすすめです。
<さいごに>
各々が病気の予防をきちんとすることは、感染症の蔓延を防ぎ、地域の動物たちを守ることにつながります。地震や台風などの災害がいつ起きてもおかしくない近年、日頃から感染症対策をしておくことは重要であり、ワクチン接種や寄生虫予防についての理解は社会全体にとって大切なことです。
そして一律ではなく個別の医療が求められる時代であり、ワクチンについてもそれぞれの環境や体質に合わせて個々に最適なものを選択することが理想的です。
ガイドラインも最新の知見に応じて変化していきます。現在の流通や社会の仕組みの中ででき得る最善の提案をできるよう、今後もアンテナを張り対応してまいります。