猫の症例猫の診療
消化器科3 門脈シャント(単一性肝外シャント結紮術)
こんにちは、岡村です。
新年になり、寒さも継続していますが、お変わりなくお過ごしでしょうか?
本年もどうぞよろしくお願いいたします
アフリカで、エボラウイルスに効果的なワクチンの臨床研究が始まったようです。
ワクチンひとつを完成させるのに、とてつもない知恵と時間、お金がかかります
それでもこういう恐ろしい病原体に対するワクチンは、はやく世にでてほしいですね。
インフルエンザも毎年かなりの患者さんがかかります。
ワクチンで重症化が防げる病原体に関してはその英智の恩恵をうける事が賢明ですよね。
わんちゃんにもジステンパーウイルスやパルボウイルス、狂犬病ウイルスといった
致死的となりうる危険な病原体が意外と身近に存在します。
予防接種で余計な心配を防いでおきましょう
若い動物がかかる疾病には、こういった感染症や先天性疾患(生まれ持っての疾患)があります。
今回は先天性疾患の中でも一般的に「門脈シャント」と呼ばれる、こむずかしい疾病のお話です
肝臓の近くには、門脈と大静脈という重要な2つの血管があります
門脈は腸から吸収された様々な物質の輸送路で、物質はこの血管を通って肝臓に預けられて代謝(解毒)され、きれいになった状態で肝臓をでていきます
大静脈は全身をまわってきた血液が通る血管で、肝臓に入っていくことなく心臓に帰ります。
2つの血管は交わることはなく、代謝されていない毒素が全身をまわらないようになっています
しかしもし、門脈と大静脈の間にバイパス(シャント=短絡)が生まれ持ってあるならば、
門脈を通った血液のほとんどは肝臓を経由せず大静脈を通って心臓に帰ってしまいます
ここで発生する問題は
1. 肝臓で代謝されていない(アンモニアなど)有毒な物質が体内を巡り、
脳などへ直接または結石の形成などを介して間接的に体に有害な作用をおよぼすこと
2. 肝臓に栄養が行き届かず、肝臓の発育が悪くなること
3. 肝酵素値やアンモニア値など、検査上でも臨床症状でも様々な異常をみせること などです。
診断は、CTを含む複数の検査をしっかり受けていただく必要があります
治療は、検査結果を踏まえて行い、バイパスが1本なのか複数なのか、
またどこでバイパスを形成しているのかで変わります。
写真は、単一の短絡血管をもつ猫ちゃんの門脈造影検査です。
肝臓に造影剤(白い管)が入らず、バイパスを通って心臓に帰っていることがわかります。
この場合、外科治療が可能です。
門脈圧を測定しながら、シャントを糸でしばります。
術後には、バイパスは封鎖され、肝臓の隅々まで造影剤が入っていくことがわかります。
これで肝臓の機能障害は改善され、様々な問題は解決に向かいます
しかし外科治療を選択される場合、それは唯一の根治療法ですが、
術後予測は不可能で、時には発作をおこし、昏睡状態となるケースもあり、
そこから回復するための手厚い看護ケアが求められます
肝臓酵素に異常がみられる場合や食後に嘔吐をよくする場合、ふらつきがある場合などは、
放置せず1度は詳しく診てもらってくださいね。
わんちゃん、ねこちゃん、フェレットさんで報告のある疾病です。
今回は、何よりも昏睡状態から回復するまで献身的な看護をなさり、ずっとご信頼いただいた飼い主様、
そして、多大なるご支援をいただいた、しん動物病院(http://www.shin-ah.net)の皆様、ありがとうございました。
持つべきは友人で、獣医師会もそうですが、同級生ネットワークもとても大切だなととても感じました